佐野厚生総合病院耳鼻咽喉・頭頸部外科主任部長
大久保 啓介
繰り返す誤嚥性肺炎などによって主治医から口から食べることを禁止されることがあります。
なんらかの理由で禁食のままになっていることや、急性期病院に入院中に禁食と決められたことが施設でも継続されていることがあります。
誤嚥性肺炎ではどうして禁食になるのでしょうか?おそらく主治医は食べ物を誤嚥して肺炎になった可能性を考えて、とりあえず禁食とすることが多いのではないかと思います。確かに食べ物が原因となる肺炎に対しては、一度飲み込みの機能を見定める必要があります。
一方、誤嚥性肺炎の原因は、食べ物の誤嚥以外にも実にさまざまです。痰を出す力が弱い、免疫力が低下している、虫歯を放置している、食べる前の口腔ケアが不十分、食べたあとにのどに食べ物が残る、誤嚥したかどうかわからない、などです。
では禁食となった患者は、どのように経口摂取が再開されるのでしょうか?実は、ここに大きな問題があります。
痩せた高齢者はもともと飲み込む力が落ちています。肺炎で入院するとベッド上安静と栄養不足で急激に全身やのどの筋肉量が減少します。さらに炎症そのものでも筋肉が分解されてしまうために、筋肉にとってはまさにトリプルパンチになるのです。
全身やのどの筋肉が低下してしまい、いざ食事を開始しようとすると、いままで食べていたものがむせて食べられなくなってしまっていることが多いです。
飲み込む力が弱くなっている方に経口摂取を再開するときには、食事介助が必要になります。この食事介助には、相当の知識と判断力、技術力が必要です。座位ではむせるために、体のバランスをとりながらリクライニング位をとる、あごを引いて食べる、一回量を少なくする、好みに合わせてタイミングよく口に運ぶ、物性に合わせて食べる順番を決める、出来るだけ本人の手を使う、声かけをする、などです。これを本人に合わせて行う必要があります。
しかし高度な医療を行なっている急性期病棟の看護師や看護助手はあまりに多忙のため、食事介助の技術がなかなか浸透していないのが実情です。
そこで、口から食べる機能がどれだけ残っているのか、どのような条件なら食べることができるのかを専門的に調べることを目的として、嚥下機能検査のための2週間入院を 2022年1月から開始しました。
入院の適応は以下の条件を満たす方です。
他院に入院中の患者は受け入れを行っていません。以前受け入れを行なっていたときに、元の病院に戻ることができず、退院先がなくなった方が増えて当院の職員が大変困ってしまったことがあります。
一般外来で紹介状をお持ちで受診された場合、後日面談の日程の予約を取らせていただきます。受診当日は詳しいお話をすることができません。
医療機関から当院医療福祉支援室に連携していただくか、ご家族から電話でセカンドオピニオンの申し込みとして面談日を決定いたします。
当院ホームページ「セカンドオピニオン」を参照ください。受診には主治医や、かかりつけ医からの紹介状が必要です。
火曜日午後に行います。ご家族だけでなく、ご本人の同席も可能です。
入院期間および退院先についての確認を行います。
面談で入院が決定した場合、ひきつづき入院予約の手続きを行います。
入院中はNPO法人口から食べる幸せを守る会の小山珠美理事長が提唱しているKTバランスチャートを駆使しながら、あらゆる手技を用いて口から食べる方法を検討し、患者毎に適した摂食嚥下リハビリテーションを行います。
どのような条件であれば口から食べることができるのか、そして考えられるリスクについてもご家族の方にお話させていただきます。
図 入院後の流れ
原則として入院中に希望により他科を受診すること(いわゆるついで受診)はできません。
当院は急性期病院であり転院先を探すための待機入院はできません。
退院先が未定の場合は入院をお断りしております。
状態によって誤嚥防止手術 や 嚥下機能改善手術を提案する場合があります。
現在入居している施設の介護者に情報提供をすることは可能です。当院にお越しいただければ更に詳しく説明することも可能です。
これまでご本人の食べたいという気持ちを受け止め、入院先から転院という形式で受け入れてきました。しかし、多くの場合は元に入院しているところへは戻ることができず、退院先を探すのがとても大変なことが何件かありました。また、当院でのリハビリテーションの継続や、耳鼻咽喉科がいる病院を希望するなど、ご家族の要望が高く転院先が決まらないこともありました。(お気持ちはよくわかります)。
私たちも努力してきましたが、転院先がみつからず待機入院するという事例が相次いでしまい、病院スタッフが疲弊してしまい、やむなく受け入れを中止しました。
数ヶ月、数年ぶりに口から食事が摂れることは、ご本人やご家族にとって大きな喜びです。当院では口から食べる幸せを守るために、急性期病院としてできるだけの取り組みを行っています。
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