嚥下機能改善手術

嚥下機能改善手術

当院の嚥下機能改善手術について

佐野厚生総合病院耳鼻咽喉・頭頸部外科主任部長

大久保啓介

はじめに

脳梗塞などの病気のために全く食べられなくなり、もともとの病気の治療やリハビリテーションを行ったにもかかわらず、食べ物がのどを通らないことがあります。

嚥下機能改善手術は、そのような患者さんに対して口から食べることを目的として行う手術です。



嚥下関連手術には大きく2種類にわけられる

飲み込みに関する手術(嚥下関連手術)は、大きく二つに分かれます。
声を残し、のみこみを良くする嚥下機能改善手術と、繰り返す唾液の誤嚥を完全に防止する誤嚥防止手術です。



図1 高度摂食嚥下障害に対する手術の流れ



嚥下機能改善手術とは


脳梗塞や頸部の病気などによって食べ物を飲み込む力が大きく低下することがあります。

これを摂食嚥下障害といいます。多くの場合、摂食嚥下リハビリテーションによってある程度食べることができるようになります。

しかし、食事形態や食事姿勢を工夫しても、食べ物がのどを通らない状態が続いてしまうことがあります。

ご本人に食べる意欲があり、体力があって元気の方は、のどの手術と術後のリハビリテーションによって再び口から食べることができます。これを嚥下機能改善手術といいます。



嚥下機能改善手術と誤嚥防止手術のちがい

嚥下?誤嚥?改善、防止・・・わかりにくいですね。一言で言うと、嚥下機能改善手術は、ごっくんを良くして、声も残る手術です。

一方、唾液すら満足に飲み込むことができずに、のどに唾液がたまってしまい、それが気管に入り込むために吸引を頻回に行う必要があったり、肺炎を繰り返す、など、大変つらい状況の方もいらっしゃいます。一言で言うと、食べるどころか唾液すら飲み込めずに誤嚥し、肺炎を繰り返す方は誤嚥防止手術が適応になります。

特殊な手術として、気管切開孔は必要ですが声を出すことができる「喉頭蓋管形成術」という術式もあります。




脳梗塞の患者に手術を行うことが多い

嚥下機能改善手術を受けられる方は全員、なんとかして口から食べたいという強い思いを持っています。

しかし手術を受けるにはある程度条件が整っている必要があります。術後リハビリテーションを受けるために、車椅子に長時間座ることができる、手と顎が自由に動かせる、自分で痰を出す、といった日常生活動作が自立していること必要です。

嚥下障害の原因となった病気が安定していることも大切です。

これらの条件を満たしやすい病気はワレンベルグ症候群をはじめとする脳梗塞です。ほかの病気に対しても手術を行うことがありますが一番多い疾患は脳血管障害です。

歩行が可能などの活動性が高い方で、現在カフ付きカニューレを装着している方も手術で良くなることがあります。

参考に、高知大学の兵頭政光先生が提唱している手術適応を提示します。



2.嚥下機能改善手術の適応



重症度分類で「食物誤嚥レベル」の患者に手術をすることが多い

嚥下障害は人によって重症度が異なります。摂食嚥下障害重症度分類Dysphagia Severity Scale (DSS)で嚥下障害を分類するとわかりやすいと思います。

だいたいで結構ですので、まずご自身がどのレベルに該当するのか、図3を見ながら確かめてみてください。


3. 摂食嚥下障害重症度分類(DSS)


この重症度分類で、DSS 2「食物誤嚥レベル」の方に嚥下機能改善手術を行うことが多いです。このレベルの方は食形態や姿勢の調整をしたり、さまざまなリハビリテーション手技を用いてもほとんど口から食べることができません。

しかし気道は安定していて、唾液や痰を自分で出することができるために吸引は不要で、肺炎も繰り返していません。逆にいうと、定期的に吸引をしないと生きていくことが難しいほどの重症の方は、嚥下機能改善手術を行なっても効果が乏しいことが多いです。

病気によってのどの感覚が全くなくなっている方も、手術をしても食べることが難しいのです。


嚥下の術式を整理する

飲み込みに関する手術には数多くの術式があります。当院でよく行なっている代表的な術式を一覧で紹介します。




図4.当院で行なっている嚥下の手術一覧




術後は7割以上の患者は3食経口摂取している

2023年6月現在、過去6年間に31名の患者に嚥下機能改善手術を行なっています(声帯内方移動術単独症例は除く)。そのうち24名の方は、術後胃ろうや点滴などは使わずに3食とも口から食べています。

一方、誤嚥のコントロールが不良のために追加で誤嚥防止手術を行なった方は3名、入院中に肺炎のために亡くなられた方は1名です。



手術合併症について

術後は出血や感染、深部静脈血栓症といった一般的な手術合併症の危険性があります。手術特有の合併症としては、挙上糸への感染、糸に対するアレルギー反応などがあります。全体の1割くらいの方は術後に挙上糸を抜糸しています。

非常にまれですが、術後縦隔炎を生じることがあります。その場合は、しばらくの間は縦隔炎の治療に専念することになります。




大切な注意事項

この手術を受ける多くの患者さんが重い併存疾患をお持ちです。現在ご自宅で生活している方は通常の紹介状で受診できますが、施設や病院にいらっしゃる場合、当院が転院を受け入れの可否について事前にご家族と面談を行なっています。 

主治医から地域連携室への連携していただいた後、当院の規定に従って面談日を設定します。当院セカンドオピニオンのシステムを通して面談することも可能です。一般外来では面談を行なっておりません。

面談の主な目的は2つです。「手術の適否」についてと「退院先」についてです。とくに現在入院あるいは入所している患者さんの場合、問題となるのが退院先についてです。

当院はいわゆる急性期病院で二次救急病院の指定病院のため、術後の転院先を探すための待機入院はできません。退院先の候補が全く無い場合や、ご家族の要望が強くスムーズな退院が困難と主治医または当院師長が判断した場合は、当院での治療をお断りしています。

 



おわりに

数ヶ月、数年ぶりに口から食事が摂れることは、ご本人やご家族にとって大きな喜びです。当院では摂食嚥下機能の向上に特に力を入れて診療に取り組んでいます。

嚥下障害で悩む患者さんやそのご家族、また医療従事者の方も対応いたします。地域連携室やセカンドオピニオンを通じてお気軽にご連絡ください。 

 

参考資料

 

5. 喉頭挙上術(甲状軟骨舌骨接近固定術)

 

 

6. 輪状咽頭筋切断術(経口的輪状咽頭筋切断術)

 

 

 

7. 声帯内方移動術(声帯内バイオペックス注入術)

耳鼻咽喉・頭頸部外科

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